技術資料(海外)


遠隔計測法(テレメトリー)の時代



著者
ディーンC. ジュッター(Dean C. Jutter)博士
マルケット大学(ウィスコンシン州ミルウォーキー)生物工学部助教授
ウェンH. コー博士(Wen H. Ko)
トーマスM. スピアー(Thomas M. Spear)理学士
ケース・ウェスタン・リザーブ大学(オハイオ州クリーブランド)
スチュアート・マッケイ(Stuart Mackay)医師


生物医学用テレメトリーは、到達不可能なことの多い場所から遠隔の監視サイトに生理学 的情報を伝送する、生物医学分野の計測法の特殊な分野である。バイオテレメトリーの目 的のひとつに、最小限の制約下で人間と動物を監視し、伝送されたデータを正確に再現す ることが挙げられる。生理学的情報の遠隔計測の一部は電話回線を使って行われるが、大 半は無線リンクを使って実施される。生理学的データを何らかの特異な形式に符号化する 手順は、いずれの遠隔計測システムにおいても共通である。送信装置は、監視対象の被験 者の体外に背負い袋(バックパック)装置として付帯されるか、あるいは、一定の大きさ にミニチュア化され、体液に対する防水処置を施された後、被験者の身体内にインプラン トされる。バイオテレメトリーでモニタリングされた動物として報告されているのは、野 生のゴキブリ、トカゲ、魚、蛇、アザラシ、鳥、ヘラジカ、キリン、イルカ、馬、カメ、 および実験室の犬、猫、ラット、ウサギ、サル、ヒヒである。


特記項目の内容
スチュアート・マッケイ医師は非常に早い時期からバイオテレメトリーに携わり、この分 野の発展や進化をいち早く我々に予言していた。マッケイ医師のメッセージには、例示と 驚くほど広範囲な種類の動物への応用が満載されている。現代のバイオテレメトリーの設 計と構築の2 大成果は、ミニチュア化とマイクロパワーである。この両分野の進歩は、半 導体とマイクロサーキットの進化と一致する。マイクロサーキットの設計と実装による信 頼性の高い、安定した集積化センサーとバイオテレメーター(生体遠隔測定器)が、同氏 が近年携わっている研究である。まさに最新の研究である。

エリ・フロム(Eli Fromm)は、「貧者の」ハイブリッドバイオテレメーターの例を使って、 低予算で、また高度なマイクロサーキット性能を必要とせずに、かなりソフィスティケー トされた回路操作が可能であることを実証した。同氏の見解は主に、2 チャンネルの設計に 関するものだった。抵抗型変換器(トランスデューサー)を使用した多重チャンネル監視 のための、FM-FM 形式のインプラント型バイオテレメーターである。他の大半の方式と同 様に、生物医学用のテレメトリーも「実験室の好奇心」から考案されたものだが、有益で 信頼性の高いデータ収集ツールにまで進化した。複雑ではあるが生理学的モニタリングの 重要な分野となったが、期待感に満ちた、やり甲斐のある研究になる可能性も高い。


生物医学用テレメトリーの目的は、通常の行動の阻害を最小限に抑えて動物と人間を監視 あるいは研究し、身体の到達不可能な部分を探ることである。多様な状況が対象となる。 実験動物の大きさはミツバチからクジラまで、有効伝送距離は1 センチから数千キロメー トルまで、伝送時間は数分から数年あるいは実験動物の一生など、多様性に富む。周波数 の範囲は40kHz から数100MHz、被験物(被験者)は樹木から人間まで、これには空中を 飛ぶ生き物や地中に潜っている生き物、淡水や塩水で泳ぐ生き物が含まれる。トランスミ ッター(発信機)は手術でインプラントされるか、飲み込まれるか、他の一般的な身体の 開口部から挿入される。あるいは体外で携行する。トランスミッターに給電するため、お よび機械的運動を誘発させるために、電気を体内に向けて誘導し、組織を刺激する。トラ ンスミッターは危険な状況で被験者の安全性を監視し、微生物のない領域から信号を搬送 し、矢形で動物にマーキングし、再生データを増減する。トランスミッターは、睡眠や交 尾、労働、食事、講演、潜水など幅広い状況で用いられてきた。これらの測定はすべて、 被験者の行動を邪魔せずに、生物医学用テレメトリーにより実施することができる。


テレメトリーの文字通りの意味には、多くの実験が分類される。今日のバイオテレメトリ ーの流れを汲んで、最初に研究に着手した著者の一人がフランスのマレー(Marey)である。 同氏は陸上および空中の運動に関する論文「Animal Mechanism」を著した。この第3 版 は1883 年に出版されている。同書では、馬の背に乗る騎手などの実験について説明してい る。騎手は回転するカイモグラフ(運動記録器)を背負い、馬の歩行が、各ひづめに取り 付けた電球に4 本のラバーチューブをつなげて調査された。図1 はこの論文に収録されて いるものである。1903 年、アイントホーフェン(Einthoven)は、約1 マイル離れた単線 検流計に、ライデン(Leiden)電話システムの電線で心電図の電圧を送信した。1921 年、 ウィンターズ(Winters)は、医師の乗船しない船のデモンストレーションで、海上無線リ ンクを使用して心音を送信した。電子的方式の進化により、より小型のトランスミッター が生産されるのに合わせて、様々な信号用の外部トランスミッターも進化した。後に複数 のグループが、小型のコイルと電極を動物の頭部に挿入し、交流電流を誘導させて、テレ スティミュレーションの原型を発案した。


筆者が体内から信号を送信するという発想に至ったのは、1946 年、排尿中の人間の膀胱内 の圧力について疑念を抱いたのがきっかけで、膀胱への無線発信機の配置という提案に至 った。この実験はのちに、トランジスターの発明後に行われた。


信号の送信
被験動物(被験者)の体内からの信号の送信は、進化の遅い技術だった。1952 年7 月2 日、 ウィリアム・ショックレー(William Shockley)とベル研究所が、筆者に4 個の実験用の 点接触トランジスターを送ってきたが、小型パッケージ内での給電に問題があった。(当時 は、接合トランジスターは軍用以外で使用できなかった。)その後、完全にパッシブな情報 送信を可能にする、別のアプローチが開発された。図2 はマルケヴィッチ(Markevitch) の1954 年の学部研究レポートから抜粋したものである。口内に同調回路を入れ、グリッド ディップメーターで顔面の外側から周波数を監視する。マルケヴィッチのテストの回路か ら、体内に埋め込んだ微小なコイルから、身体の組織内を通って信号を送信できることが 証明された。


筆者は個人的に、緑内障と眼内の圧力の連続的な監視に関心があり、これは1963 年のアー サー・チェン(Arthur Chen)が著した、もう一つのパッシブテレメトリーシステムに関す る修士論文内で述べられている。カーター・コリンズ(Carter Collins)は、バークレー校 の博士号研究の一環として、おそらく現在も世界最小のテレメトリートランスミッターと されるものを製作した。このトランスミッターのコイルは、微小な(直径2mm、厚さ1mm) プラスチック製の球内に搭載できる。コリンズの記録の1 つから、予想外の景色など、突 然の音や、その他の知覚様式に反応したウサギの眼内の圧力変化により、似通った過渡電 流が発生することが示されている。手術により眼内にインプラントされたトランスミッタ ーは、漸次的感受性の測定により、その機能の状態をいつでも点検できる。1956 年、同じ 研究で博士号を取得した学生が誕生した。同じ年、スェーデンでの長期休暇の準備をして いた筆者のもとに、医療工学の討議のためにV. ツヴォルキン(Zworykin)医師が訪れた。 我々はマルケヴィッチの研究を再考した。


1957 年、カロリンスカ大学(スウェーデン)でバーティル・ヤコブセン(Bertil Jacobson) と筆者は、トランスミッターから人間の消化管沿いに比較的強い信号を送信することに成 功したと報告した。(それまでに、接合トランスミッターの利用が可能になっていた。)こ の課題については、それ以前に学生が報告しており、新しい発表も行われていたが、初め ての技術文献2 点は1957 年に執筆された。デバイスを説明するエンド(内部)ラジオゾン デという言葉が編み出されたが、その他にラジオピル、Gutnick(ガトニック)、トランセ ンサーなどの用語も使用された。一部の昆虫に使用するトランスミッターも開発されてい る。無線または電気による送信以外の複数の形態が、テレメトリー信号の搬送に使用され た。水中で信号を送信する方法には、発光ダイオードの調光、超音波エネルギーが使用さ れる。通常の周波数は50〜250kHz の範囲であるが、信号は周波数変調かパルス周波数変 調である。この信号を使用して、人間のダイバーが監視され、また汚染水域に入った魚の 反応が監視された。無線信号は淡水ではかなり浸透するが、水の伝導性が高まるに従い、 遮蔽作用により周波数帯が狭まる。水中を出入りする被験体(アシカや落水の中で産卵す る魚など)の場合、無線送信が優先される。我々はネズミイルカの胴体を効果的に送信ア ンテナに活用し、最終的に自在に泳ぐネズミイルカの深部温度を連続的に監視できるよう にする、小型の無線送信アンテナを開発した。ネズミイルカは餌を丸ごと飲み込む性質が あるため、トランスミッターは、死んだ魚のエラの中に取り付けることで被験体の体内に 送り込むことができた。伝送周波数には50kHz が選ばれた。これは心室細動を引き起こす には高すぎ、海水で有効な距離を維持できる低さであるためだ。


多少複雑な用途では、手術によるインプラント方式が用いられている。一部ではあるが、 生まれつきトランスミッターの機能を備えている動物も存在する。研究者は(ダイバーや 宇宙飛行士のように)即時性のある情報を監視するのではなく、データを集めるだけで、 テレメトリーは録音で代用できる。研究者は、放射光により暗さを変化させたフィルム(★ radioactive light variable darkening film の意味はX 線写真のようなものでしょうか?)や、 磁気テープ、最近では半導体メモリを使用した各種の電気めっき(★記録に使用する意味 が分かりません)で信号を記録する。テレメトリー用トランスミッター以外にレコーダー も、自動分離式であるため、計測後の回復が可能である。


他の分野の研究では、生理学的データの収集が必要な場合、小型の体内トランスミッター から発信される信号を、外部の小型のトランスミッターで受信する。外部のトランスミッ ターは微弱な信号を捕捉し、周波数を偏移させたあと、強力な出力で遠隔地の受信箇所に 送信する。人間または動物の体内のトランスミッターは、3 通りの方法でオン/オフを切り 替える。すなわち磁気スイッチを使用する方法と、通常のトランスミッター内に外部から の電力を誘導させる方法、インプラントしたレシーバーから外部の信号でトランスミッタ ーを起動させる方法である。このような方式に用いられる技術と応用は進化し続けている が、研究者の想像力だけが追い付いていない。上記の説明と例証から、生物医学用のテレ メトリーの起源は明確ではないものの、依然として形成段階の途上にあり、新しい技術の 進化に合わせてそれを活用するという、研究者の想像力が不足しているに過ぎないのであ る。


テレメーターの形態(バックパック式とインプラントのいずれか)は、大きさ、コスト、 回路の複雑性、電力要件(および要求される作動時間)、トランスデューサー、送信される データの性質、および計測能力によって決定される。エンドラジオゾンデとラジオピルの テレメーターは完璧であり、初期のバイオテレメトリーでスチュアート・マッケイにより 様々な種類の動物で大々的に用いられていた。


無線による伝送は、電話回線よりも一般的な複合SCO 信号の送信方式である。バイオテレ メトリーでは振幅変調および周波数変調のいずれの搬送波も使用されており、FM-AM と FM-FM に指定されている。この省略は、それぞれ無線搬送波の符号化のタイプと変調のタ イプを表している。FM-AM も使用されているが、FM-FM システムの方が一般的である。 これは予測される全体的な性能はFM 無線リンクの方が高いためである。またFM 無線周 波数発振器は、通常はコルピッツ構成で、1 個のトランジスターで簡単に装着できる。


FM-FM バイオテレメーターは、制約のない幅広い監視研究で数多く用いられてきた。犬の 体温や、ラットの深部体温、ウサギの体温の日変化、人間の体温調節と薬物反応、サルの 排卵検出などが報告されている。すべて上記のテレメーターを組み込んだ、安価なサーミ スタ変換器を使用している。人間の歩行研究、サルのECG、EEG、ZPG、血圧、pH、卵 管収縮力もFM-FM システムを使って遠隔測定されている。


米国では、幸いにもバイオメトリー無線伝送用に十分な周波数帯域が利用でき、連邦通信 委員会(FCC)により、生物医学用のテレメトリーには特別に2 つの周波数帯が割り当て られている。同国では帯域幅と帯域内要件を満たせば、変調形式あるいはトランスミッタ ーの安定性に制約が課せられない。市販用に製造されたバイオテレメトリー装置は、FCC の型式承認が必要であるが、学校や大学で使用されるカスタムメイドのデバイスは型式承 認が不要である。しかしFCC 規則・規制 - Part 15、15.177(c)への準拠が要求される。 いずれの場合も、規制対象の品質は電界強度、搬送波周波数、帯域幅、スプリアス発射(割 り当てられた周波数帯以外からの、他のサービスに干渉する可能性のある発射)である。 電波放射は国ごとに異なる形で規制され、適宜、規制機関に問い合わせなければならない。 生物医学用データは、電磁波、光、超音波などの多様な変調エネルギー形態を使用して、 空気、空間、水、生物組織を含む、2 点間に介在する実質的にすべての媒体を介して遠隔測 定されてきた。無線周波数エネルギーは、バイオテレメーターとレシーバー間で最も一般 的に使用されるリンクである。現在では、衛星による2 点間のデータの送信も一般的にな っている。


生物医学用テレメトリーは、約30 年にわたり活用されており、広範囲にわたる動物種およ び監視状況から制約のない生理学的データを取得するための有効なツールとなっている。 バイオメーターの回路の設計と構築のための上記の技術は、現在広く定着しており、今後 はさらに、バイオテレメーターとトランスデューサーのミニチュア化と統合、電源の改善、 パッケージングの改良といった分野の開発が進むと見られている。


複雑な機能を目的としたマイクロエレクトロニクスと集積回路の進化により、現在、イン プラント可能な電子計器の寿命を判断する上で第1 の制御要因となっているのが、パッケ ージの信頼性である。最もソフィスティケートされたバイオメトリー器具は、人間と動物 のいずれの体内でも同様に見られるような、AG 侵食環境用の電気回路を考案する際に使用 される素材と同等の性能を持つ。現在入手できる中で、最高のパッケージング素材をカテ ゴリ化することは難しい。


インプラント可能なトランスデューサー。この形態のパッケージでは、バイオマテリアル (生体材料)は2 つの基本要件に適合しなければならない。まず、デバイスへの体液の流 入を防止できること。第二に、所要の信号の変換への干渉を最小限に抑えること。生物医 学用のほとんどのトランスデューサーのパッケージングでは、絶縁保護層がデバイス上に、 特に導電性の区画と腐食の可能性のある区画に沈着される。この素材は(通常は粘着性の ラバーまたは樹脂性)は、環境影響を防御する肉薄で頑丈なフィルムとして機能する。ま た部品を事前に正しく洗浄していない場合、異物やバクテリアが物体に残存する可能性が ある。

インプラント可能ないずれのパッケージも、重さを最小限に抑える必要がある。インプラ ントにより周辺組織にかかる負担(振幅、時間など)は、インプラント箇所の血液循環を 変化させ、組織反応に影響する場合もある。インプラント可能な金属としてチタンが共通 に使用される理由の一つに、比重が低く、タンタルやタングステン、ステンレス鋼などの 他の金属と比べて強度重量比に優れている点が挙げられる。丸い角や鋭利な縁は、組織を 局所的に刺激するため取り除く必要がある。流線形の外形が望ましい。インプラント箇所 とインプラント方法も、測定箇所の局所反応に影響する。

米国の研究と患者監視のための 生物医学用周波数の割り当て
周波数 帯域幅 電界強度 帯域外トランスミッター

MHz

KHz

μV/m 要件(最大)
38-41 200 0(15m 地点) 1 10μV/m(3m 地点)
88-108 200 50(15m 地点) 40μV/m(3m 地点)
174-216 200 150(30m 地点) 15μV/m(30m 地点)

第123回東京定例会資料